他国における『海外労働者の受入れ』の現状①:韓国
こんにちは。
ケアネットワーク協同組合の元木です。
(↑注:大阪は本日より月末まで緊急事態宣言です)
本日からしばらく、他国はどのように海外労働者(※)を受入れているのかを、いくつかの国別でお伝えしたいと思います。初回となる今回は「他国における『海外労働者の受入れ』の現状①:韓国」というテーマです。
※ここでいう「海外労働者」は、「専門職・高度人材(専門人材)」ではない「非専門職・非熟練労働者(単純労働者)」にフォーカスします。
【韓国の制度:歴史と当初】
日本のお隣の韓国ですが、第二次大戦後からしばらくは労働力の輸出国でしたが、1980年後半から外国から労働力を輸入する立場に逆転しました。韓国で就労する外国人労働者のほとんどが、観光または親族を訪問するという目的で入国し、そのまま在留し就業していた「未登録労働者」でしたが、これを法的に整備した「産業技術研修制度」を1991年11月に、その後1993年11月には対象を中小製造業まで拡大して「産業研修生制度」をスタートして徐々に受入数を増やしていきました。ちなみに韓国でとられたこれらの制度は日本の「研修生制度」と「技能実習制度」に類似しており、参考にしたものと思われます。
【韓国の制度:転換と現状】
「産業研修生制度」は、開発途上国への技術移転という「国際貢献」を目的としていましたが、実態は外国人労働者を「研修生」として受入れ「労働者」として活用する矛盾を抱えていました。そのため、研修という建前と低熟練労働力の確保という本音の乖離が大きく、未登録労働者の増加や賃金の不払い、暴行などの人権侵害問題が続出しました。そこで、 韓国政府は「産業研修生制度」が抱えているこれらの問題を是正すべく、2003年7月に「外国人労働者雇用法」を制定し、2004年8月から「雇用許可制」を施行しました。「雇用許可制」は、製造業、建設業、農畜産業、サービス業等の分野で、従業員300人未満の事業所が、韓国人労働者を雇用できない場合、所定の手続きを経て、外国人労働者と雇用契約を締結できるという制度です。この雇用許可制の導入は、それまでに合法的に受け入れることがなかった非熟練労働者を受入れる枠を設けたことに大きな意義があります。
【雇用許可制の概要】
雇用許可制は、働き手を送り出す国と韓国政府が協定を結んだ上で、期間を区切って外国人労働者を受け入れる枠組みです。送り出し国は、韓国で働きたいと希望して韓国語の試験に合格した人のリストを韓国に送ります。韓国政府は、国内の雇用情勢を踏まえて、受け入れ業種と人数枠を国別に設定。企業は、求人を出して韓国人を雇う努力をしても集まらなかったことを証明した上で、送り出し国のリストから働き手を選ぶ。働ける期間は原則3年で、4年10カ月まで更新できます。いったん帰国して、条件を満たす形で再入国すれば、さらに4年10カ月の就労が可能です。家族の帯同は認めていません。現在の受け入れ業種は、製造業・建設業・サービス業・農畜産業・漁業で2020年の受け入れ枠は5万6千人でした。雇用許可制で就労する外国人労働者数は、2020年末時点で約 23.7 万人おり、受入れ対象国は16ヵ国あり、多い順にカンボジア(3.3 万人)、ネパール(3.1 万人)、ベトナム(3.1 万人)、インドネシア(2.4 万人)、フィリピン(2.1 万人)でそれぞれ全体の 10-15%程度を占めています。
【雇用許可制の特徴】
韓国の雇用許可制は国際機関や日本の学術界、メディア等から高い評価が与えられています。評価のポイントは4つ
1)ブローカーを排除する仕組みにしている
2)韓国人と外国人間で職の競合が起きないような仕組みにしている
3)(実習・研修等ではなく)労働者としての受入れにより、韓国人労働者と外国人労働者は均等待遇である
4)勤務先の移動(転職)を認めており、非正規滞在者が減少している
雇用許可制の最大の特徴は、送出しから受入れまでのプロセスを公的機関が担い、ブローカーを排除している点でしょう。具体的には韓国政府・雇用労働部が主幹しており、実際の海外現地の送出しから韓国入国までの実務は、雇用労働部傘下の韓国産業人力公団が担当しています。また、雇用許可制では、雇用主側の法令違反等の問題がある旨を立証できる場合、滞在期間中3回(延長時は+2回)まで勤務先の変更が認められており、雇用労働部傘下の政府系シンクタンクによる調査結果に基づくと、実際、毎年、雇用許可制で働く外国人労働者の約2割が勤務先を変更しています。
評判が良くなかった前制度の「産業研修生制度」におけるネガティブな要素を徹底的に取り除いた結果、制度設計上、その狙いはほぼ達成されているとみて良いでしょう。
【雇用許可制の問題点】
上記のとおり、優れた制度設計で評価の高い雇用許可制ですが、実際の運用ではいろいろと問題点も出てきているようです。中でも最大の特徴であるブローカーの排除に関しても実際には排除しきれず、様々な名目で非公式費用(賄賂・斡旋手数料)や民間ブローカー費用が来韓に際して徴収されている事例が一部調査で明らかになっています。また、転職雇用許可制では、通常3年+延長1年10か月の4年10か月の就業後、さらに「誠実勤労者」として4年10か月(一時帰国を挟み、合計9年8か月)の就業が可能になっていますが、全期間で「同一職場で働き続けること」が条件となっており、長く韓国で働くために勤務先変更をしたくてもしづらい仕組みが問題視されています。
【最後に】
今回のblog(シリーズ)に関しては「他国には日本の技能実習や特定技能に相当する制度ってどんなのがあるのだろう?」という個人的な思いつきがきっかけで、とりあえず特に深くも考えず、地理的に近い韓国から調べてみたのですが、調べてみると「雇用許可制」は実に興味深いものでした。様々な要因が複雑に入り組むので、単純な比較はできませんが、送出し国側からみた場合、日本と韓国を比べるとどちらが魅力的な渡航先に見えるのでしょう。
本稿では以下のHPを参考、一部引用させて頂きました。ありがとうございました。
『外国人労働者の受入れによる 労働市場への影響 … – 厚生労働省』
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000672273.pdf
『現地調査からみる韓国・雇用許可制の実態』
https://www.murc.jp/report/rc/policy_rearch/politics/seiken_210514/
『韓国・雇用許可制はブローカーを排除できているのか』
https://www.murc.jp/report/rc/column/search_now/sn210514/
『韓国における研修生制度の受容と変容』
http://iminseisaku.org/top/conference/4-3.pdf
『韓国の雇用許可制、技能実習制度との違いは 識者に聞く』
https://www.asahi.com/articles/ASP3K5CJJP3DUHBI02T.html
私たちケアネットワーク協同組合は「介護人材に育つ環境づくりのお手伝い」を合い言葉に、これからも組合員事業所様を最大限にバックアップして参ります。
よろしくお願いします。(M)