他国における『海外労働者の受入れ』の現状②:台湾
こんにちは。
ケアネットワーク協同組合の元木です。
(↑注:大阪は夏本番の気温になりつつあります)
他国はどのように海外労働者(※)を受入れているのかを、国別でお伝えするシリーズ、「他国における『海外労働者の受入れ』の現状①:韓国」に続き、2回目となる今回は「他国における『海外労働者の受入れ』の現状②:台湾」というテーマです。
※ここでいう「海外労働者」は、「専門職・高度人材(専門人材)」ではない「非専門職・非熟練労働者(単純労働者)」にフォーカスします。
【台湾の制度:歴史と当初】
台湾では早くから製造業や介護関係で人材不足になることを見越して非熟練労働者としての外国人材を受け入れてきました。1980年代以降、国民所得が増加し、教育水準が向上と共に、若者を中心に3K職種の人気がなくなり、また、少子高齢化の進行で労働力不足が顕著となっていました。外国人材の受入れに関する制度がなかった当初は、観光ビザで入国し不法就労する者が急増しました。政府はこうした状況に対処するため、1990年10月に「十四項重要工程人力需求因応措施法案(政府プロジェクト公共工事に係る雇用需要対策法)」を立法し、建設業務における非熟練労働者の受け入れを開始しました。
【台湾の制度:現状】
1992年には「職業服務法」等の外国人の雇用と管理に関する法律が整備され、本格的な受入れが開始となり、建設業だけではなく、家事サービス、介護、製造業等にも対象分野が広がりました。その後、受入総量数を調整しながら、各分野において二国間協定に基づく形で非熟練労働者を受け入れています。現在の二国間協定締結国はフィリピン、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、モンゴルの6ヶ国です。職種は制度開始から徐々に拡大はされてはいますが、特例的な「その他」も含めてもわずか11項目に限定されています。
台湾において単純労働者を受け入れている職種
【台湾での外国人労働者受入れの概要】
台湾住民の就労権を保障するとの観点から、国民の就業機会、労働条件、国民経済の発展及び社会の安全を妨げない限りにおいて、非熟練労働に従事する外国人労働者を受け入れるという「労働市場の補完としての受入れ」の色彩が強くなっています。働ける期間は原則3年で、4回まで更新が可能(最大で12年間)、転職は不可(ただし、雇用主が原因のトラブルは例外)、家族の帯同は認めていません。雇用プロセスは下記の図のとおりです。『労働市場テスト』というのは、外国人労働者の求人の前に、国内で一定期間、台湾人向けに同条件で、公営の就業サービスセンターで求人行うことが必要となります。(一般的には、21 日間、急ぐ場合は17日間)この求人に対しての台湾人の応募が無い場合に、「人材募集許可」の申請が可能になります。就業サービスセンターで求人を行い、台湾人の求職者からの応募があった場合、それを断わった上で外国人労働者を雇用するということは基本的にはできません。もし断った場合はその理由の提出や、外国人労働者を受け入れる場合も細かくチェックされることになります。
外国人労働者雇用プロセス
【台湾での外国人労働者受入れの特徴】
台湾の外国人労働者受入れ制度の特徴としては上記した「職種が限定されている(11項目)」と「労働市場テスト」以外には
1)業種別の受入れ人数の制限
2)「職業安定費」を雇用主から徴収することによる外国人雇用コストの引上げ
3)外国人労働者に対する言語要件、技能要件がほとんどない
などが挙げられるでしょう。
1)の業種別の受入れ人数の制限に関しては業種別に細かいルールに従って制限が課されますが、業種別の受入れ総量は設定しておらず、コントロールしていません。労働部の顧問である学者ら専門家の意見を収集しながら業種別の雇用率を設定しています。
2)の「職業安定費」とは、外国人労働者 1 人雇用するあたり、雇用主に対して一定額を徴収している雇用税ともいえる費用です。職業安定費を徴収し、外国人労働者の雇用主のコストを上げることで外国人労働者の雇用を制限しています。金額は業種によって異なりますが、1人あたりの月額は1,900元~10,000元(日本円で約7,600円~40,000円)と幅がありますが、「家庭看護/介護」の業種は免除となっています。
3)に関して、介護分野での技能実習・特定技能に関係している自分からすれば、少々驚きますが、要件をほとんど設けていないことが、労働力需給に対してスピーディーな対応が可能となっている側面があり、申請から実際の入国まで通常だと2ヶ月~3ヶ月程度ということです。。一部、インドネシア出身者が介護分野で働くために、入国前に 360 時間以上の中国語学習が二国間協定で定められているものの、これらも最低限の中国語学習であり、実際は入国後に生活をしながら学んでいくのが通例のようです。
【仲介事業者】
台湾においては、送出し国現地及び台湾国内のいずれにおいても、民間仲介事業者を介して外国人労働者を受け入れているケースを基本としています。仲介事業者が関わる意義としては、マッチング機能以外にも、宿舎や食事などの生活支援を受入れ企業側が準備できないため支援が必要なこと、受入れ企業と外国人労働者との間で言葉が通じないため、コミュニケーションを円滑にするための通訳等のフォローが必要なこと、労働部へ提出する資料が多岐にわたり、そのフォロー(代行)も必要なためのようです。仲介事業者は、行政の許可を得なければならず、外資系の仲介会事業者も海外現地で許可を得た後、台湾でも許可を得る必要があります。許可要件としては、資本額は 500 万元(約2,000万円)以上、補償金は 300万元(約1,200万円)と高額に設定しており、小さな仲介会社は認めない制度設計にしています。
【台湾での外国人労働者受入れの問題点】
台湾の外国人非熟練労働者は当初予定していた雇用期間が終了した後、不法滞在者へと移行するケースが少なくありません。近年、年間2万人近くの外国人労働者が失踪しています。行方不明者を雇用していることが発覚した場合は、雇い主に多額の罰金が科せられますが、外国人労働者にとってはより高い給料を求め、雇い主側にとっては人手不足の解消と両者の利害が一致する状況のため減少傾向にあるとはいえません。また、失踪者を雇うことで雇い主側は仲介事業者への管理費、政府への職業安定費等は必要なく、金銭的なメリットがあるのも一因でしょう。
【台湾の介護事情】
2020年9月時点で、台湾の外国人労働者は698,218人、そのうち介護分野での就労人口は252,100人で36.1%を占めます(ちなみにトップは製造業の428,502人で61.4%と、製造業と介護だけで97%を占めています) 一方、介護分野で働く台湾人(結婚移民を含む)は2020年6月現在では合計で6万人ほどしかおらず 、介護現場で働くスタッフの約80%は外国人介護労働者という計算になり、業界全体が外国人介護労働者に大きく依存している状況にあります。
【最後に】
日本の介護現場からすると「介護現場で働くスタッフの約80%は外国人介護労働者」という事実に驚きます。ただ、台湾における高齢者介護では『家庭で家族が介護する』『親を老人ホームに入れるのは家族の恥』といった風潮も強く、近年では介護施設は増えつつあるものの、現在も介護現場は施設よりも家庭が主流です。外国人介護労働者に関しても、当然、家庭介護の割合が高く、上記の252,100人のうち約9割(236,572人)が家庭外国人介護労働者という統計結果が出ています。日本の技能実習制度や特定技能制度では訪問系のサービスに就くことは認められていませんが、台湾の場合、1人の高齢者にマンツーマンでサービスする家庭介護ということで可能になっていると思われます。
本稿では以下のHPを参考、一部引用させて頂きました。ありがとうございました。
『外国人労働者の受入れによる 労働市場への影響 … – 厚生労働省』
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000672273.pdf
『施設介護に従事する外国人労働者の実態-雇用主の評価をもとに-』
https://www.works-i.com/research/paper/works-review/item/070601_WR02_12.pdf
『諸外国における外国人材受入制度 ―非高度人材の位置づけ―台湾』
https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2018/documents/207_06.pd
『外国人労働者受け入れ、台湾に学ぶ 都会生活に満足、スキルアップも』
https://globe.asahi.com/article/11542753
『台湾がコロナ禍で介護労働者不足の危機に』
https://toyokeizai.net/articles/-/398182
『親を老人ホームに入れるのは家族の恥、台湾の介護事情』
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/18900
私たちケアネットワーク協同組合は「介護人材に育つ環境づくりのお手伝い」を合い言葉に、これからも組合員事業所様を最大限にバックアップして参ります。
よろしくお願いします。(M)