2021.10.14

介護職の年収450万円時代の到来(?) -どうして今、介護職の処遇改善を進めるのか-

 

こんにちは。 

ケアネットワーク協同組合の元木です。

(↑注:今日も半袖で仕事をしています💦)

今回は

「介護職の年収450万円時代の到来(?) -どうして今、介護職の処遇改善を進めるのか-」

というテーマです。

関連記事:やはり足りなくなる介護人材【コロナ禍が収まれば人材の奪い合い?】

朝日新聞『(社説)介護職員不足 将来見据えた対策を』から考える外国人材活用

『職場環境を整える手段』としての視点を持った外国人材の受入れを

 


【SOMPO、介護職約1千人の年収50万円引き上げ、450万円へ】

2021年10月13日、朝日新聞がSOMPO、介護職約1千人の年収50万円引き上げへ 看護師並みにという記事(※)を掲載しました。 (※)有料記事扱いですが、無料会員登録をすれば全文を読むことができます。

以下、記事本文を抜粋(『赤文字』)しながら、内容を一部紹介します。

冒頭、『SOMPOホールディングスは、傘下の介護事業大手「SOMPOケア」の介護職員約1千人の給与を来年4月に引き上げる方針を固めた。対象の正社員の年収水準を50万円ほど引き上げ、介護施設で働く看護師の平均的な水準並みの450万円程度にする。』とし、その目的を『介護人材の確保や定着に欠かせない処遇改善を急ぐ必要があると判断した。』と述べています。また、引き上げの対象となるのは『SOMPOケアは正社員約1万人のうち、約7千人が介護職。今回給与引き上げの対象になるのはこのうち、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、在宅サービスなどの介護現場で「ケアコンダクター」と呼ばれるリーダー級の職員約1千人で、職務手当を増額する。』とし、リーダー級の職員に限られるようです。


【立て続けに給与引き上げを発表(?)】

今回の記事内で『SOMPOケアは19年10月にも約10億円を投じて介護職のリーダーらの給与を上げた経緯があり、今回が第2弾になる。第1弾では、競合社に比べて処遇が見劣りし、人材確保が難しかった地域などでは最大で年80万円上げ、対象者の年収が300万円台から約400万円にアップした。』とありますが、これは時期的に考えると、「技能・経験を持ったリーダー級の職員の処遇改善」を目的に介護保険制度の中で新規に設けられた『介護職員等特定処遇改善加算』を使った昇給で、昇給の原資のほとんどは介護報酬が充てられたと推測されます。(そう考えると、発表の仕方が上手いですよね、SOMPOケア)

ただ、少し気になる点があります。実は今回の記事とは別に2021年7月28日、読売新聞がSOMPO傘下、介護職ら1000人の年収100万円引き上げ…深刻化する人手不足に対応という記事を掲載しています。

冒頭で『SOMPOホールディングスは、傘下にある介護事業会社の中核職員約1000人を対象として、2022年度に年収ベースで100万円程度引き上げる方針を固めた。高齢化で高まる介護ニーズに対して深刻化する人手不足に対応する。』と述べ、中段では『年収を現在のおおむね300万円台から400万円台へと高め、看護師の平均給与(400万円台後半)の水準を目指す。原資は、今後の事業拡大で収益力を高めることで捻出する。』と記されていますが、そうなると

2019年10月の昇給で

年収が300万円台から約400万円にアップ』した『介護職のリーダーら

と、2021年7月に読売新聞で報じられた

介護事業会社の中核職員約1000人

と、今回の朝日新聞で報じられた

介護現場で「ケアコンダクター」と呼ばれるリーダー級の職員約1千人

は、どのように対象が異なって(もしくは重なって)いるのか、正直なところわかりません

ハッキリしているのはSOMPOグループでは介護職(のリーダー的中核職員)の昇給に積極的であるということでしょうか。


【次期選挙に向けて各党が政権公約に介護の処遇改善を盛り込む】

以上は1つの企業グループ内での介護職員への処遇改善の取り組みでしたが、それとは別に国政レベルでの処遇改善の動きもあります。今月31日に予定されている衆議院選挙に向けて自民党は2021年10月12日、次期総選挙に向けた公約を発表し、介護職員への処遇改善を明記しています。

自民党 令和3年 政策パンフレット(PDF)

2021年衆院選 自民党公約要旨(読売新聞オンライン)

▽ 看護師、介護職員、幼稚園教諭、保育士をはじめ、賃金の原資が公的に決まる方々の所得向上に向け、公的価格のあり方を抜本的に見直す

▽ 介護・福祉人材の確保と介護の受け皿整備を推進

また、立憲民主党もこれに先立って、選挙公約を発表しており、同様に介護職員への処遇改善を明記しています。

立憲民主党 政権政策2021-Policy4暮らしの安心への投資

2021年衆院選 立憲民主党公約要旨(読売新聞オンライン)

▽ 医療・介護事業者に包括的な支援金を支給し、医療・介護従事者には、慰労金の支給(新型コロナの患者に対応した従事者に20万円)など待遇改善を進める

▽ 医療や介護への財政支出抑制方針を転換する

▽ 医療や介護、子育てや教育といった分野に予算を重点配分する。これらの分野に税金を投入することによって、間接的に可処分所得を増やすとともに、将来不安を解消して消費を伸ばす

与野党の第一党がそれぞれ、介護の処遇改善を公約に盛り込んでいますので、これで、次期選挙の結果にかかわらず、近い将来に介護職員の処遇改善は約束されたと考えて良い……のかどうかは、今後、しっかりと注視したいと思います。


【官民揃って処遇改善をおこなう理由】

そもそも官民が揃って処遇改善を進めようとしている理由はなぜでしょう。

「永年、現場で働いてくれている介護職員の皆様に少しでも報いたい」

…という要素は皆無ではないとは思いますが、主たる理由ではないと思われます。それよりも、処遇改善をおこなって、

「介護業界を労働者にとって高収入が得られる魅力的な現場にして、多くの人材を集めたい」

というのが大きな理由でしょう。すなわち、現状の処遇(=給与)では、拡大する需要(=高齢者の増加と共に要介護者も増加)と縮小する供給(=労働力人口の減少)に対して、働き手である現場の介護職員を確保できないという強い危機感が、官民が揃って処遇改善を進めようとする理由です。


【処遇改善だけで人材確保できるのか】

答えは「No」です。

日本の人口減少に歯止めがかからず、今後さらに進むということは確実です。介護に限らず、あらゆる産業において人手不足がこれから深刻化する将来に対して、事業を運営する側は多様な方策を採っていくことが求められます。業務改善や業務手順の見直しによる効率化や職場環境・福利厚生の改善により自己都合の退職を減らすetc.

なお、『外国人材の受け入れ』は実際の現場に立ってもらえるという意味では、極めて有効なカードです。

「人手は不足しているけど、今のところはなんとかなっているから…」というような理由で外国人材の受け入れに消極的な事業所の方には、今からでも結構ですので、ぜひ『外国人材の受け入れ』を前向きに検討していただきたいと思います。


【最後に】

SOMPOグループの処遇改善に対する姿勢はもちろん評価されるべきものですが、対象がリーダー的中核職員に限定されています。介護現場におけるリーダー(とりわけ施設介護で)は大変重要な役割で、その成果に対して充分に報いることに異論はありません。ただ、介護業界がもっと魅力的な職場になるためには、働き手全員に行き渡るようなボトムアップ的な広い範囲の処遇改善も重要になってくると思われます。自民党・立憲民主党が掲げた上記の公約を実現させる際においてはぜひ、「広い範囲の処遇改善」を期待したいところです。


私たちケアネットワーク協同組合は「介護人材に育つ環境づくりのお手伝い」を合い言葉に、これからも組合員事業所様を最大限にバックアップして参ります。

 よろしくお願いします。(M